おぼえがき

なにをかいわんや

2年前書いたやつ(耽美な文体いまさらできない)

アーカイブスです。

しばらくブログをサボっていた。三連休が終わりそうな不安感を紛らわすために携帯の整理をしていたら、誰に見せるでもなく書いていた昔の文章がアレコレ出てくる。わりと今と文体が違うのが自分のことながらおもしろいのでおぼえがき。

なにかを意識しているような大仰な書き方は最近する気にならんなあということで個人的アーカイブスしてもいいかなーと思ったが、結構シェイムである。考えていることの本質についてはあまり変化はないがこのかんじの文章表現をするロマンチシズムは今のところ失われている。以下章題とまとめ以外ほぼコピペ(あまりにもシェイムな部分は書き直した)

 

 

死を意識した瞬間

うだるような暑さが落ち着いてきた初秋、活動期を迎えた蜂がオフィスや自宅に飛び込み、軽い騒動になることがたまにある。
そのたび、大学四回生の秋、学祭の片付け中にスズメバチに刺されたことを思い出す。それはファーブル昆虫記の挿絵に描かれているような綺麗なスズメバチだった。


そのとき軽音部員であった私はライブの会場にしていた学生食堂のテーブルの上に靴を脱いでよじ登り、天井近くの窓に貼っていた暗幕を剥がしていた。昨夜までひたすら酒を飲み議論をし騒ぎ、近所から苦情が来ない程度の爆音で音楽を流し楽器を鳴らしてわーっとしていた人たち同士が同じ場所にいたが、翌朝は誰もろくろく会話をする体力も社会性もなく、目を合わさず無言で撤収作業をしていた。

そんな折、内太ももに鈍く刺すような痛みを突然感じた。ポケットの中に朝イチで解体した模擬店の小屋の釘でも入れてしまっていたかと思うが早く「いや、さっきスズメバチが床に落ちていたのを見たな」と思い当たった。
その場で服をたくし上げて確認することもできないので、近くで作業をしていた後輩に「私、蜂に刺されたかも」と告げ、食堂近くの女子トイレへと駆け込んだ。個室の中でワンピースの裾をめくると、スズメバチが服の中でブンブン飛び回っている。
なぜ蜂に対してなんの危害も与えていない私が理不尽に暴力を振るわれなければならないのかと、怒りがこみ上げた。個室の中で始まったデスマッチ、死に物狂いのスズメバチに脇腹や脚をさらに三箇所ほど追撃されながらも、バシバシと力任せに叩いて殺した。それでは飽き足らず、さらに靴で踏み潰し便器に流した。スズメバチが万が一蘇ったら間違いなくもう一度攻撃されるだろうという予見もあった。「やったか?!」が禁忌なのは知っている。

こんなに暴力的な対峙は後にも先にもない。私は、殺意には殺意で返す人間なんだな…となんとなく思った。

 

死に向かう

トイレから出ると、心配していた後輩がすでに119番をしており、数分後には人生初の救急搬送をされた。救急車にはその場に居合わせた友人が同乗してくれた。
救急車のベッドの上で、「あ、これで死ぬのかも知れない」と思った。

スズメバチに刺されたら、運が悪ければあっさり死んでしまうという印象を抱いていたことと、これまで大きな病気や怪我とは無縁な人生を送っており身体に危機を感じるような経験が極端に少なかったことが現実的な死をイメージさせた。数日間の祭りが死によって幕引きとなることに、なんとなく満足を感じた。
秋の天気のよいあかるい昼日中に救急車に乗って運ばれていく。楽しく幸せな記憶を反芻しながら、友人に看取られて死ぬ。これまでの嫌なことも良いことも、努力したことも、怠惰であったことも、全部打ち止めだ。
私を知る誰もが、不幸な事故だったがスズメバチに刺されてしまっては仕様がない、死ぬ間際まではさぞ楽しかっただろうに、と思うに違いない。死ぬのならこんな時が一番いいと腑に落ち、もう死んだような気になって大いに涙が出た。蜂に刺されたくらいで死んでしまうものではないと思っていた友人は、私がなぜこんなに泣くのかと不思議だったという。

 

それから・蜂=死
その後、私は当たり前に死なず、生活の中に蜂が飛び込んで来たときは「私は一度刺されているので今回やられたらすぐ死ぬ」と言って、我先に蜂から逃げ回る暮らしを続けている。
蜂は死のイメージと強くつながっている。蜂は死の約束を果たすことを誘い投げかけてくる。蜂に刺されることが死のきっかけとなるのなら、いつでも私はあの日を想起する。私の死を悼んでくれる人々は、秋の最中の学祭の片付けの日に思いを馳せるかもしれない。様々な思いを抱えて過ごした学生の時分へと時が戻っていく。
そんなことを思うと、私の命を握る蜂への忌避と愛着は不思議と深まる。蜂に出会うたびに、まだ今この場所で死にたくないという気持ちと、全てを差し置いて今死んでしまっても良いと思う気持ちとが私の中でせめぎ合う。

 

 

まとめ

このあと、自宅の寝床で死ぬ死ぬロマンにひたりまくって、当時現金欲しさにイヤイヤやっていた祇園の飲み屋のバイトを二日続けて無連絡でサボった末クビになりました。現実とロマンチシズムとの折り合いな。