おぼえがき

なにをかいわんや

天啓のように読みたくなったので、少女椿を読んだ。

少女椿を衝動的に読みたくなったので初読。

 

丸尾末広作品は夢野久作大好きマンとしてはもっと早く手をつける機会がいくらでもあったのだが、「間違いなく楽しめるコンテンツ」をストックしておくのが好きなタイプのオタクなので、温めているうちに10年くらい経ってしまった。

(このストックがあると、好みのコンテンツの新作がリリースされなくてしんどいときに助かる。いわば保存食である)

このような気持ちで心に留めておいたものが、ある日天啓を受けたかのように「あ、今すぐ欲しい」となり、素早く入手して熱が冷めないうちに読む瞬間はとても楽しい。

 

感想としては、気分が落ち込むようなグロテスクさや悲壮感があるかな?と覚悟して読んだのだが、全然エンタメとしていい感じに消化できた。

状況がエグくても作画が美しいのでまじまじと見たくなる、作者がヒドイ筋書きに感情移入しすぎず、わりと素面で軽妙に描いている。みどりちゃんが図太い人間性してたり、顔が良いから余計にいい目にあったり辛い目にあったりしてるのを俯瞰で見てる感じ、カメラ位置が遠い感じがフィクション感・日常ドラマ感がある。「みどりちゃん美しいなあ」で楽しめる。

アニメ版の方が底冷えするような鬱々とした空気があった印象(それはそれで好き)。きっとそういう印象を映像化したのだろうから、受け手側によって印象が変わる作品なのかもしれない。

 

芸人たちもやってることはひでーんだけど、あんまり真剣味がなくて結構かわいい。鞭棄は顔がいいクズ男でオタクホイホイなのわかる。カナブンは普通に少年でかわいい。まじめに火吹きの練習してるのかわいい。

ワンダー正宗も絶対的強者・諸悪の権化じゃなく、無表情の中に人間味を感じるシーンが多くて全く憎めない。わりとキレやすい小心な人間なのが面白い。みどりちゃんがあんまり正宗に心から信頼を寄せてないのも良い。みどりちゃん基本的に薄情だよね。

ラストシーンは悲劇というより、これまた薄情な終わり方。でもまあ正宗もクソやしこうなるしかないよね…というかみどりちゃんが幸せになってしまったら見世物小屋否定の構図になり、それまでの経緯が「嫌な話」になってしまう。誰にも肩入れしておらず、自由に解釈ができる虚無エンドで良かった。

 

まとめ

湿っぽさがなくて思ったより爽快感があって良かった。舞台のような作品で、骨太感あってすごく好みでした。ディテールだけじゃなく読感が夢野久作にすごく似ていて本当に思ったより良くて大満足。

そして作画のレベルが鬼のように高い。それだけでも手元に置く価値がありすぎる。気合が入っているページの大ゴマは圧巻。